第11回 日本臨床研究学会 対談記事

 

「臨床医が本物のScientistになるために:巨人の肩の上に立つ矮人(わいじん)」


<基本情報>

対談日:2019年1月16日 21:00 ~

対談者:大森 寛行

対談時所属:岐阜ハートセンター

経歴:2006年 島根大学卒業

英字論文経験:原著 1編、Case Report 3編

掲載雑誌:Catheterization and Cardiovascular Interventions (2017 Impact Factor = 2.602)

論文詳細:

Omori H, Kawase Y, Hara M, Tanigaki T, Okamoto S, Hirata T, Kikuchi J, Ota H, Sobue Y, Miyake T, Kawamura I, Okubo M, Kamiya H, Tsuchiya K, Suzuki T,  Pijls N.H.J, Matsuo H. Feasibility and safety of jailed-pressure wire technique using durable optical fiber pressure wire for intervention of coronary bifurcation lesions. Catheter Cardiovasc Interv 2019 Epub ahead of print.

 

<投稿経過>

First submission:2018年4月26日

経過:4 Rejections

Final acceptance:2019年1月2日

 

2018年4月26日 JACC: Cardiovascular Intervention 投稿

2018年5月29日 Reject with Review

2018年6月05日 Circulation: Cardiovascular Interventions 投稿

2018年6月06日 Rapid Rejection

2018年6月09日 Eurointervention 投稿

2018年7月07日 Reject with Review

2018年7月08日 American Journal of Cardiology 投稿

2018年9月03日 Rapid Rejection

2018年9月05日 Catheterization and Cardiovascular Interventions 投稿

2018年10月8日 Major Revision

2018年12月1日 1回目再投稿

2019年1月02日 論文受理


<対談コンテンツ>

原 )皆さん、こんにちは。今日は岐阜ハートセンターの循環器内科で働かれている大森先生に来ていただきました。まず簡単に自己紹介をお願いします。

 

大森)平成18年、島根大学を卒業の大森寛行と申します。最初は愛知県の刈谷豊田総合病院で研修をしまして、その後いくつかの病院をまわって、4年前から岐阜ハートセンターで働いております。今、医者12年目になります。

 

原 )今回、Catheterization and Cardiovascular Interventions(CCI)と呼ばれる循環器系のImpact Factorが2.6点の雑誌に論文が通りました。内容を簡単にサマライズしてもらっていいですか。

 

大森)通常冠動脈形成術で分岐部を含む病変にステントを留置する場合、ステントで塞いでしまった側枝の治療をするかどうかは術者によるところが多いのですが、最近は側枝の虚血の有無をpressure wireを用いて冠血管予備量比fractional flow reserve(FFR)という指標で評価する術者もいます。その際、耐久性の良いpressure wireを用いると、jailed wire techniqueというテクニックを用いてより安全に虚血の評価ができるのではないかという方法論について研究を行いました。

 

原 )非専門家は何を言っているのか分からないかもしれませんが、今回はかなりテクニカルな話ですね。冠動脈の狭窄部分をステントで拡張する際、分岐部があるとそれを塞ぐ形でステントを留置せざるを得ず、これを側枝側から見ると牢屋に閉じ込められたようになるので側枝をjailするという表現を用います。その時にjailされた側枝の血流が落ちる可能性があるので、pressure wireでFFRを測定する際にいちいちwireを入れ替えずに最初からwireごとjailさせてしまうテクニックに関する論文ということです。いつものように事前アンケートに従っていろいろ聞いていきたいと思いますが、まず日本臨床研究学会からサポートを受けて全体を通した感想を教えて下さい。

 

大森)一番有難かったのは、原先生の方針が本当にブレないということです。まず最初に、そもそもこの研究が本当に論文になるのかというところから不安があったのですが、原先生が「すごくいい研究だね」と言ってくださったのが、非常に有難かったです。

 

原 )なるほど。もう少し「方針がブレなかった」という部分について具体的に教えてもらえますか?

 

大森)論文を書いている際にどういう方針で書くべきか悩む箇所が結構多かったのですが、自分で考えたことを先生に聞いてもらうと「それ、いいね」とか「それはあんまりいらないね」といったように即決してくれて方針が明確になったということです。

 

原 )なるほど。回答がクリアだったということですね(笑)

 

大森)はい。

 

原 )例えば臨床をしていてある疾患にアプローチする際に自分なりのパターンというか、基準みたいなものがあると思います。臨床研究でも同じようにこれまでの経験からそういったパターンを私自身が持っているので、そういう意味でブレなかったという事ですね。ちなみに大森先生が自分の中でブレたなぁと記憶しているようなところはどのような部分でしたか。

 

大森)例えばIntroductionを書いていて、pressure wireで測定するFFRという指標の事について側枝関連ではなくもっと一般的なレベルの話から最初は書いていたのですが、それを原先生に見ていただいてFFRの一般論は今回の研究で全然関係ないのに一生懸命に書いていたなと。側枝の話に限定するべきだったのに一般論から側枝に頭の切り替えが出来ずブレブレだったなと思いました。

 

原 )なるほど。

 

大森)側枝のFFRにフォーカスして、今回の趣旨と合わない一般論の話を削除してかなり論文自体がスッキリしました。あとは結果に関しても側枝の部分以外の測定データも持っていたためそれを一生懸命解析していましたが、それも話し合いの結果掲載しない方針になりました。よくよく考えるとこの辺りのデータは今回の論文では特に大事なデータではなかったのですが、データを持っているとこれも出したい、あれも出したい、みたいな感じでブレてしまうことが多かったです。

 

原 )なるほど。これは初学者が皆陥りますね。この話は極意本にも実践対談本にもあまり書いていなかったかもしれないですけれども、結局論文は1つの論文に対して1つのトピックだけを主張する方がいいと思います。何故ならば、あれもこれもと多くの話題を書くことは可能ではありますが、そうすると書いたトピックの数だけReviewerに反論される余地を与えてしまう結果に繋がるからです。プレゼンテーションでも同じですが、初学者や経験が浅い人はとにかく情報を詰め込み過ぎることが多いように思います。そうすると聴衆や読者は、著者が一番言いたい事が何か分からなくなってしまうのですね。研究のフォーカスがブレるというのは日本のドクターがものすごくよく陥るパターンです。そういう意味では今のコメントは初学者にとって非常に有益ですね。教訓としては「主張は1つに落とし込むべし」ということですね。まだ先生は初学者なので、今回の研究はjailした側枝のFFRの話をしている論文なのに、初めに先生はmain vesselのFFRの数字もデータとして持っているからそれも出したいなという衝動に駆られたのは当たり前の話ですけどね。

 

大森)そうですね。

 

原 )ついでにその路線で話をすると、初学者は自分が勉強したことをどんどん論文に書きたくなる衝動にも駆られます(笑)

 

大森)あ~、そうですね(笑)

 

原 )そこは方針がブレるというのとは少し意味合いが異なるかもしれませんが、情報を詰め込みすぎて主眼点がぼやけてしまうというパターンは初学者にはよくあることなのです。そういう意味では今回大森先生が言ってくれた「方針がブレない」というコメントは、主眼に置いているところだけに集中して論文を書いていく作業全体に対する印象からきたコメントっぽいですね。

 

大森)「結局何が言いたいの?」っていう原先生からのコメントがよくありました(笑)

 

原 )そうそう(笑)

 

大森)よく考えるとあるゴールに向かって論文を書いているわけで、自分の中で学んだ知識をただ書いているだけではゴールに向かって走っていないな、ということが今回よく理解できました。

 

原 )大森先生は論文を1本書いただけでそういう感覚になったというのが凄いですよね。というかまぁ、別の研究もしていますからそういうのを通しての最終的な感想なのだとは思いますが。今別の論文も沢山書いていますが、全然主眼がブレなくなってきていますからね。私が指摘しなくても「これはいらないと思うんですけど」みたいな言い方をするようになってきましたよね。

 

大森)はい。

 

原 )私は極意本で「発表はシンプルにしろ」と書きましたが、そことも被りますかね。何れにしても論文でも発表でもあまり情報を詰め込みすぎないことが重要です。ちなみに先生は「どうせ側枝の話題だし」、といって他の先生からあまり今回の研究に関して興味を持ってもらえないという話もしてましたよね。でも臨床で重要なことは、小さな工夫や気遣いを沢山することで、その積み重ねの集大成として患者の治療アウトカムが変わるという感覚ですよね。本気で臨床に取り組んでいれば必ずこれは感じたことがあると思います。

 

大森)そうですね。ちなみに話は少し変わりますが、nを少しずつ増やしながら今回の論文が完成したわけですが、とは言っても51病変での解析結果ですので、結局はまだnが少ないと言われてしまうのですが。。。

 

原 )その手の批判はどこまでnを増やしても言われますからね(笑) 数百例でも足りない等と言われることもあり、キリがないです。

 

大森)そうなんですね。今回の論文でも「症例数が少ない」というコメント付きでRejectされることが多かったので。

 

原 )でもそれは「症例数が少ないから」というだけの理由ではないと思います。影響はしていると思いますが、多分デフォルトで書いている部分も大きいのだと思います。例えば日本からの投稿というだけで「英語ができていない」とデフォルトで書いて送ってくるReviewerや雑誌も多いです。

 

大森)そうなんですね。

 

原 )日本に留学で来ている英語ネイティブの外人が論文を投稿しても、毎回「英語をなおせ」とコメントされるといった話が結構あります。それは笑い話としてよく聞く話なのですけどね。

 

大森)決まり文句のようになっているということなのですね。

 

原 )日本人は英語が下手だからという先入観が最初からあるのだと思います。日本人はそういう位置付けで見られているということです。レベルが低いという先入観ですね。それはもう仕方がありませんが、それでも今回しっかりと論文としてアクセプトされているわけですからね。それでは次の話題に移りたいと思いますが、研究について思っていた通りだったことと、思っていたことと違った事をいつも聞かせてもらっているのですが、思っていた通りだったことにはどんなことがありましたか。

 

大森)今回51病変の解析ということでnが少なかったのと、Single CenterのRetrospectiveな研究であったので、自分的にはこれでメジャージャーナルに通すのは難しいなとは思っていました。そこは思っていた通りの部分だったのかなと今は感じています。

 

原 )なるほど。ちなみに今回そうはいっても論文がアクセプトされているわけですが、スタート時点からやり直せるとして、MulticenterでProspectiveにデザインしてnを多くしてしっかりやるべきだったと思いますか?少し意地悪な質問ですが、それによって論文の臨床的なメッセージや、インパクトが変わると思っているということでしょうか?

 

大森)普遍的なことが言いやすいのかなという気はしますよね。例えば複数の施設のデータでやったら違う結果になったかもしれないとか。そういう可能性は出てくるかなと思っています。

 

原 )そうですかね。今回の研究を他の施設でやったら結果が変わると思うということですか(笑)?。

 

大森)いや、きっと変わらないです(汗) でも証拠がないですよね…。

 

原 )こういう極度にテクニカルな研究の場合、おそらくRetrospectiveだろうがProspectiveだろうが結果なんて変わらないと思いますよ。その考え方は私的には少し教科書に毒され過ぎではないかと思いますね(笑) 仮に今回の研究に関して「Prospectiveでやるべき」と主張する人がいたとして、Prospectiveのデータで出したら恐らく次は「Randomizeでやるべき」と批判されると思います。

 

大森)まぁ、確かに(笑)

 

原 )どこまで行ってもゴールはなくて、研究で大切なのはその結果にどのような臨床的価値があるのか、それがどこまで普遍的に適応できると思ってもらえるかだと思いますから、センスがある人が読んで結論が変わらないようであればあえて難しいやり方をしなくてもよいと思います。私は仮に先生の今回の研究がProspectiveのMulticenterになっても、Clinical Impactとか Clinical Implicationとか、聴衆や読者が持つ印象、もしくはこの手技をやってみようという気持ちになる人の割合で考えると、多分ほとんど変わらないと思っています。確かに論文の評価は少し変わるというか、Impact Factorが1点くらい高い所で通るかもしれないとか、そういうどうでもいい所は若干違ってくるかもしれませんが。

 

大森)まぁそうですね。

 

原 )これはRetrospectiveの研究の結果だから応用するのはやめておこうとか、Prospectiveだからやってみようっていうのは少なくともセンスのある臨床家の中ではDecision Making にはそれほど影響していないように思います。それを聞いて何か思うところはありますか?

 

大森)多分結果的には同じことになると思うんですけど。Impact Factorがもっと高い所に載せようと思うとそういうのが必要だったのかなというのは・・・

 

原 )メジャージャーナルを目指すのであれば確かにRandomizeでした方がいいというのはありますね。しかしImpact Factorに拘らずにコンセプトをしっかりアウトプットするという意味では、今回みたいな研究はすごく大切です。というかむしろ、愚策の極みである臨床研究法案ができたせいで日本でProspective&Randomize で研究ができるかと言うと実質的にはほぼ出来ないですからね。かなり個人的な意見と受け取られるとは思いますが、皆にはもう少しClinical Impactをイメージして、メッセージがProspectiveやRandomizeでやっても殆ど変わらないのであれば、こういう単施設のRetrospectiveでもしっかりとペーパーを発信する方が面白いと思いますけどね。

 

大森)日常臨床をこなしながら自分の施設で集めて出せる研究という意味では、教科書的にいいとされる研究デザインを取ることはなかなか難しいですよね。自分のやれる限界でやった研究という意味では今回の研究が海外の査読英文誌に受理されたのは素直に嬉しいです。

 

原 )だからもっとポジティブになって下さい(笑) 色々な人からProspectiveでないとか、Multicenterでないとか批判をたくさん言われているからこその先生の意見だと思いますが、文句を言う人は何をやっても最後まで文句を言いますからね。どんなことをやっても無意味です(笑)

 

大森)そうですね(笑)

 

原 )今回も各雑誌からのDecision Letterを読んでいて、一応オンラインサロンの方でも投げましたけれども、決してMajor Journalに手が届かなかったかというと全然そんなことはないと思っています。例えば、1番初めに投稿したJACC: Cardiovascular InterventionはImpact Factorが10点近い循環器系のMajor Journalの1つですが、Reviewer 2 はMajor revisionで返していると思っています。Letterの内容を読者は知らないので分からないと思いますが、Reviewer 1がRejectで返してきているのは明らかですが、Reviewer 2はどちらかというとFavorな意見でした。Reviewer 1がかなり批判的にコメントをしているのでRejectになりましたが、Reviewer 2と同じ感覚の査読者が二人評価についてくれていたら多分1st DecisionがMajor Revisionになっていたのではないかと思っています。

 

大森)なるほど。

 

原 )Reviewerの当たりは運だけですからね。Circulation系の雑誌は確かにRapid Rejectionで返してきていましたから吟味せずにサンプルサイズでバサッと切ってきている可能性が高いですけどね。まぁそういう態度もあってCirculation系は最近どんどんImpact Factorが下がっています。結果としてJACC系がImpact Factorで完全に追い抜きましたけれども、その辺のClinical Impactをもっとしっかり吟味して面白い論文を一生懸命採択している雑誌が非常に伸びています。

 

大森)はい。

 

原 )JACC: Cardiovascular Interventionはそういう意味で、私は手が届いていたと思っていますし、3つ目に投稿したEurointerventionもReject にはなりましたが4人もReviewerがついています。内訳的には2人はMajor Revisionでpriorityで少し弱いかなという判断、1人がminor revision、1人はRejectで返してきているなという感覚ですよね。Reviewerの組み合わせの運が良かったら、可能性としては通っていてもおかしくはない状況だったと思っています。

 

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(後日談)

その後JACC: Cardiovascular Intervention(2019;12:109-111)にHidalgo Fから「Feasibility and efficacy of the jailed-pressure wire technique for coronary bifurcation lesions」というタイトルの赤字部分が大森先生の投稿論文のタイトルと一致する論文が報告されました。どう考えてもマルパクリとしか思えないような内容です。恐らく査読者がアイデアを真似した上で我々の論文をRejectにしたと思われます。私自身も数多く経験していますが、白人至上主義の世界ではこのように面白いアイデアは簡単に業績を掻っ攫われて踏み台にされてしまうこともあります。意図的にReviewの返事を遅くしたうえで同じアイデアで被せてきて先に論文化されることもあります。これが世界の実情です。しかし、やはりMajor Journalにアクセプトされるレベルのよい研究であったことが証明されたとも思っています。

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大森)結局、どういうReviewerに当たるかの運が結構・・・

 

原 )そうです。だからまだ先生は考え方がコンサバすぎると思います(笑)

 

大森)そういう経験が十分にないこともあり、偉い人に指摘されると「あぁ、そうか」と流されてしまっていました。

 

原 )そこはある程度仕方がありません。ただし、先生の所属施設である岐阜ハートセンターはかなり恵まれておりまして、日本の病院としては非常に例外的なのですが実はInternational Multicenter Prospective RegistryやRandomized Controlled Trialに共同研究施設としてかなり積極的に参加している施設になりますよね。

 

大森)そうですね。

 

原 )そういう意味ではそのデータを使えばMajor Journalは全然狙えますよね。

 

大森)それはありがたいですね。

 

原 )先生はまだ成功体験が少なくて少し偉い人の意見に流されてしまうところがあるかもしれませんが、これから論文をどんどんと書いていって自信が積み上がれば、まだまだイケイケの発言をするようになると思います。というか、CCIに取り掛かる前の先生と今の先生を比べたら、すでに相当ポジティブになっていますからね(笑)

 

大森)う~ん(笑)

 

原 )目も肥えて判断力もかなり付いてきているように思います。最近は「こう言われたんですけど私は違うと思うんです」みたいなことを言ってくれるようになってきていますので。

 

大森)確かにいろいろ勉強の仕方とかも変わりました。論文を読む時も、研究を行う視点で読むと得られる情報量が全然違います。

 

原 )ですね。今、先生は論文から読み解くことのできる情報がすごく増えていると思います。

 

大森)研究を行う前は今振り返ると結構斜め読みに近い読み方をしていたことが多かったように思いますが、今は目を皿のようにして読んでいます(笑) 自分の研究に応用出来るような情報が落ちていないかとか、そういうのを本当によく意識して見るようになりました。

 

原 )今の発言はすごく的を得ていますね。研究経験がない人は論文を読むときに授業を受けているような受動的な感じでテキスト読んでいるだけのことが多いように思います。レベルが上がってくると論文を読む際に能動的に「この情報が欲しい」と取りに行くようになりますから。

 

大森)そうですね。今までは他人事みたいな感じで論文を読んでいましたが、今は全然違います。

 

原 )そうそう。

 

大森)例えばあまりにも綺麗な結果が出ていて、自分の臨床経験での印象と合わない研究があった場合、昔は「ふ~ん」って感じで、これはおかしいのではないかと思いながらも「まぁ、そんなものなのかな」と思っていましたが、最近は、自分の印象と論文の結果が合わないことがあってもデザインやエントリー基準から何故そのような結果になったのかしっかり考えられるようになりました。

 

原 )むちゃくちゃいいですね(笑)

 

大森)変わってますよね、確かに。

 

原 )それはでも論文を1編は書ききらないとそのレベルにはなれないですよね。

 

大森)難しいですね、確かに。

 

原 )だからこそ臨床医は臨床研究をするべきだといつも強く感じています。私は毎年とある研究会で留学助成のコンペティションの審査員をするのですが、すごくうまくプレゼンをするDrがチラホラいて、例えば「英語論文の実績が20編あります」とか主張するわけです。しかし、私は事前に履歴書に記載された文献に目を通すようにしているのですが、蓋を開けるとImagingとかCase Reportばかりで、Firstの原著論文は1編だけとか結構あるのですよ。20編論文出してますと言って、まぁそれは嘘ではないですが明らかにmisleadingな発表ですよね。そういう人の発表は、発表はうまいのですが中身はゼロのことが多いです。

 

大森)やはりCase Reportと原著論文ではだいぶ差があるという事ですね。

 

原 )先生はCase Reportを3編くらい書いていましたよね。

 

大森)そうですね。

 

原 )だけど論文を書くノウハウについては全然・・・(苦笑)

 

大森)確かに(苦笑)

 

原 )要するに、論文を読むときに能動的に自分から、これはどういうデザインなんだと、デザインに問題があるから結果が違うのではないかという読み方ができていなかったわけですよ。

 

大森)うんうん。

 

原 )でも今はそれができてるわけですよね。原著論文を1編書いただけである程度は出来るようになっているわけです。

 

大森)確かに原著論文とCase Reportでは苦労が全然違いますね。

 

原 )Case Reportも勿論大切なのですが、原著論文を沢山書いているDrがCase Reportも大切だと言うのはいいのですが、Case Reportしか書いてない人がCase Reportは大事ですと言っていても全く深みがないんですよね。

 

大森)それを言われると・・・(苦笑)。Case Reportを先生と一緒に書いても、色々気づかされることがあると思うのですけれども。

 

原 )いや、それがね、Case Reportを指導してもエビデンスを読みこなすという意味ではそこまで突っ込んだ話にはならないです。Case Reportって簡単ですから。むちゃくちゃ簡単。エビデンスを学ぶという意味ではImagingは論外。大切な症例を発信して皆でシェアするという意味では大切ですけど、あくまでもエビデンスを学ぶ、という意味では得られるものはほぼ0です。

 

大森)あまり深い考察がないんですか?

 

原 )ないない。何も考えずに書けることが多いです、Case Reportは。本にもそう書いてあるでしょ。Case Reportの書き方って。大体枠にはめて書いてしまう人が多いと思います。私は深い考察はCase Reportだけでは学ぶことができないと思っています。Case Reportしか書けない人はポジショントークで凄く大切って言うのですが、それはそれしか出来ないからそう言っているだけなのではないかなと(笑)。

 

大森)あ~、なるほど。

 

原 )何れにしても大森先生が研究について思っていた通りだったことは、症例数が少ないときついかなということですね。私はそこには異議を唱えましたけれども(笑) 次の質問に移りたいと思いますが、研究について思っていたことと違っていた事にはどんなことがありましたか。

 

大森)これは本当に痛感したのですが、相手が初見でもうまく伝わる文章を書くのが非常に難しかったです。説明不足でこちらが言いたいことがなかなか伝わらない文章になってしまっていました。

 

原 )なるほど。

 

大森)例えば、どの論文でもその分野にある程度知識のある人がReviewerについていると思うのですが、今回Reviewer 1から「側枝のFFRの臨床的意義はRCTで意味がないという結論が出ている」というコメントがありました。実際はその研究はMethodsに色々と問題点があり、結論なんてでているわけがないというスタンスでサラッと記載するのみとしていましたが、そのことについて詳しくきちんと伝えられていなかったのも問題だなと思いました。そういうのが今まで思っていたことと違いました。

 

原 )その件には2つのポイントがありますよね、1つは例えある程度分野が異なる専門家が読んでもそれなりに理解してもらえるように、分かりやすく説明する能力が必要ということです。患者さんに病状説明する時に必要な能力ですね。

 

大森)うんうん。

 

原 )もう1点は、誰が読んでもおかしいと思われないような書き方をする能力も大切です。今回の件でいうと、Reviewer 1は 「RCTで結論がついているでしょ」と言ってきているわけですから、「いや、ついてないですよ(笑)」って書いちゃうと、相手は気分を害してしまう可能性が高いです。そういう意見もありますが、「こうこうこういう視点ではまだ結論が付いていないと言っている人もいる様です」みたいな書き方だと、第三者の意見なのでReviewer 1もある程度抵抗なく読めます。

 

大森)う~ん。

 

原 )ですので他人に伝わらない場合原因にはポイントが2点あって、平易な言葉、単純な分かりやすさという意味と、後は誰が読んでも誤解なく正確であるという2つの点に注意しなければなりません。平易に書くのは結構誰でも出来るのですが、誰が聞いても、どの立場の人が聞いても、「それはそうだよね」という位のニュアンスで文章を書くテクニックは結構難しいですよね。

 

大森)難しいですね。確かに側枝のMACE(major adverse cardiac event)の頻度に差はない・・・。そこだけとれば側枝のFFRは意味がないのではないかとReviewer 1が思い込んでもしかたがないです。

 

原 )そうそう。Randomized Controlled Trialでね、側枝のFFR、今回大森先生がやっているようなことを行ったとしても、MACEというアウトカムが変わらないという論文が1編報告されていますからね。

 

大森)そうですね。ただ結局RCTって評価していない項目は表に出てこないところがあるので、例えば胸痛症状が取れるかどうかとか、そこに焦点を当ててもいいのではないかとも思うわけですけれども。

 

原 )しかもその論文もMACEを1年後までしか評価していませんからね。

 

大森)そうですね。

 

原 )5年見たら結果が変わるかもしれません。そういう意味では1つの研究だけで結論づけるのは、少し穴だらけの評価にはなると思います。

 

大森)うんうん。

 

原 )Reviewer 1もよくもまぁ1つのRCTの結果のみをもってそんな結論にたどり着くなとは、正直思いましたけどね(苦笑)

 

大森)う~ん。そうやって思う人もいるんだなぁというか…。

 

原 )研究を自分でやった経験がほとんどないんだと思います(笑)。論文を読んでエビデンスが分かった気になっている人の典型的なパターンです(笑)

 

大森)ははは(笑)

 

原 )研究の経験が少ないとそういうデザインの違い等がなかなかきちんと評価できないのです。分かりやすい例でいうと、外人の顔ですね。白人とか黒人とか、国際化が進んでいるとは言えやはりまだ日本ではそれほど見慣れない顔ですから、同じ日本人同士だと一人一人の顔をきちんと見分けられて個別識別ができるわけですけど、白人や黒人だと初対面で10人並べられたら区別できなくなることも珍しくないと思います。それは日頃見慣れていないからですよね。例えば逆の立場でいうと、欧米とかで空港に行くと彼らはアジア人の顔が上手く個別識別できないので、パスポートの写真と一生懸命に顔を見比べる必要があるわけです。で、研究も日頃自分で研究をやっていて慣れていないと試験デザインといったざっくりとした大きな部分しか違いがわからないので、Methodsの細かい違いまで見分けることができないのです。Reviewer 1のRCTで「結論がついてるじゃないですか」というコメントは、研究の細かいところが分かっていない証拠なんだと思います。

 

大森)最初にReviewer 1に指摘される前は、まだ色々問題が残っているみたいな文書で終わらせていたのですが、他の人がそれを読んで「何の問題が残っているんだ」と思われてしまう文章を書いてしまったというのが反省点ですね。確かに少し分かりにくかったかなと。それはそのReviewer 1に指摘してもらって気づきましたので、そこを修正することで今回確かに論文がより理解しやすくなりました。

 

原 )確かに、あの文章を修正して凄く論文に深みが出ましたよね。

 

大森)そうですね。その説明がないと、確かに読者はそこで読むことを辞めていたかもしれません。この研究にはあまり意味がないのではないかと思う人もいるかなと思うので。

 

原 )あの文章が1文追加になっただけで、一気に興味を持ってもらえる人が増えたと思います。それは確かにかなり良かったですよね。さんざん悪口のようなコメントをしましたが、結論としてはReviewer 1に超感謝です(笑)。ということで思っていたことと違っていた事は、なかなか人に物事を上手く伝えるのが難しかったということですね。

 

大森)はい。他にも自分の施設の常識が、他の施設では常識でないこともある、ということにも気づかされました。 岐阜ハートセンターではステント留置後の後拡張を平均で20気圧かけて行っていました。それ自体も海外ではやっていないかもしれないですけど、日本では当たり前にやっていて。

 

原 )日本では当たり前というのも少し言い過ぎじゃないですかね?先生の施設ではやってると。

 

大森)まぁそうかもしれないです(笑)。で、結局それはそう言われてはじめて、そこに疑問を持つ人がいるんだとハッと気づきました。そこも少しコメントを加えて、理由付きで当院ではそういうふうにやっていますよとMethodsに記載することで、相手も理解しやすくなったかなと思います。

 

原 )特に海外の査読英文誌で勝負する際には、意外と自分(日本)の常識は相手(海外)の感覚からすると非常識ということも多いですからね。

 

大森)色々な人から意見を貰うことがすごく大事だなぁと思いました。

 

原 )全くその通りですね。例えばエスカレーターで左右どちらで立ち止まるかだって東日本と西日本で逆なわけですよね。

 

大森)はい。

 

原 )そういうように自分が常識と思っていることなんて、少し場所が変われば非常識になりますからね。テーブルマナーもバラバラです。手で食べてはだめな地域もあれば、手で食べなければいけない地域まであるわけですし。常識なんていうのは人によってバラバラです。だからこそMethodsでしっかり誰が見ても誤解なく伝わるように、研究が再現できる条件を書かなければいけないということです。

 

大森)まだまだあります。様々な人からコメントを貰うと様々な意見をいただけるのですが、それをどう取捨選択して受け入れるかというのがすごく難しいなとも思いました。私はまだ経験が少ないので。全部「なるほど」と思ってしまうのです。

 

原 )そこはバランス感覚ですね。

 

大森)そうなんです。そこがすごく大事だなと思いました。

 

原 )そこは北村先生との対談(実践対談本 Case 9)でも話しましたが、センスの部分になってくると思っています。それは先生が何を一番主張したいのか、という部分に応じて臨機応変に変えていくということになりますね。何れにしても先生なら多分大丈夫です。このペースで成長したら、あと2年もしたらそんなことは言わなくなると思います。

 

大森)ふふ(笑)

 

原 )研究で今まで思っていたのと違っていた事は、たくさん事前アンケートで書いてくれていますよね。先生が書いてくれていた中で私が一番面白いなと思ったのは、「論文を投稿する度にReviewerからのコメントが来るので、その度に修正するものと思っていたけど違った」というのがありました。この話は面白いですね。

 

大森)あれは本当にびっくりしました。大体知り合いの先生はRejectになっても、一生懸命その部分を修正してから次の雑誌に投稿していましたから。でも原先生は落ちたらそんなの気にせず次々出せばいいやみたいな感じで(笑) Reviewerに色々とコメントを書かれても全く修正せずにすぐ次の論文に投稿したりしてたんで、あれは凄く驚きましたね。

 

原 )それはですね、少しだけ誤解がありまして、良いコメントが来たら勿論修正します(笑)

 

大森)あ~、確かに1回だけ「少し考えさせて」と言われたことがありましたね(笑)。

 

原 )くだらないコメントだなと思ったら修正しないだけです(笑)。Reviewerのコメントは9割はしょうもないコメントですので。ただ、これは極意本にも書いたと思いますが、日本人はコメントが来たら全部それに従って必ず書き直さなければいけないと思ってる人も多いですね。それは全くの間違いで、そこを直したらまた次のReviewerからそこの部分に別の指摘がされたりしますからね。経験を詰めばわかるようになると思いますが(笑)

 

大森)直せば直すほど指摘されるところが多くなってしまうってことですかね。

 

原 )それもそうですし、全体のバランスが悪くなるということも多いです。私は経験がある程度ありますから、初めに自分なりには完璧だと思って出しているわけですから、そこからわざわざ修正したいと思えるような良いコメントは滅多にないのです。

 

大森)う~ん。その自信がすごいです。

 

原 )まぁ、それは経験と成功体験の数ですよね。臨床と同じです。例えば先生もPCIの術者をやるようになって恐らく100例位までは少し不安があったと思うのですが、術者経験が300例とかを超えてきたらまぁ、大概何が起こっても対応できるなというレベルにはなるわけじゃないですか。

 

大森)あぁ、確かにね。

 

原 )私も最近は原著論文を年間10~15編位は指導して書いていますから、経験が他の人と全然違いますからね。

 

大森)あぁ、もうこういう風に書いたらこれで完璧だと。

 

原 )そうそう(笑)

 

大森)流石に自分にそこまでの自信はないんですよね(苦笑)

 

原 )まだね。でもそのうち出てきますよ、先生なら。研究も臨床も同じで、全員初めはよちよち歩きから始めなければいけないわけですから。今はまだよちよち歩きですけど、そのうちしっかり立てるようになりますから。今の調子で経験を積んでいけば十分だと思いますよ。

 

大森)確かに原著論文を2編、3編と書くとだんだん分かってくるみたいなことは色々な先生に言われますね。

 

原 )そうですね。あと2~3年でだいぶ分かってくるのではないかと思いますね。別人ですからね、先生。1年前とか2年前とは。

 

大森)そうですか(笑)?

 

原 )研修医も2年位したら別人になりますが、そんな感じですよね(笑)

 

大森)確かに論文を読む際にすごく細かいことろまで気を付ける様になりましたね。

 

原 )それはね、実は細かいことではなくて、本来はきちんと最初から気をつけなければいけないことなんですよね。それが分かって初めて真の意味でエビデンスを臨床に応用できるようになるわけです。それが分かっていなかったら、今回のReviewer 1のようにたった1編のMethodsに色々問題のある研究の結果を引用して、「RCTで結論が付いているからこの研究は意味がないでしょ」とか言ってしまうわけです。

 

大森)う~ん、確かに。でもきちんと論理的に説明すればそれに対してきちんと受け入れてくれるのも有難かったです。

 

原 )そうそう。

 

大森)あと今回のアンケートにも書いたのですが、論理立てて説明することもすごく難しいなと感じました。日本語でも難しいのですが、英語で書くというのはさらに難しくて。最初に原先生に原稿の草案を見てもらった時には本当に穴だらけだったので、この文章は本当なのかとか、根拠は何なんだとか、その連呼でしたよね。

 

原 )ははは(笑) 皆、雰囲気で文章を書くのでね。大森先生も今はもうそんなことはないですが、前は引用文献に本当にそう書いているのかあまり確認せずにそのまま引用していましたよね。何かの論文にその文章があって、その論文が孫引きされているから書いてあるだけで、その論文を読みに行ってそう書いてあるか確認せずに引用していたので。

 

大森)そうですね。自分の書いた、又は引用した文章が本当に正しいのか最近は原著を読んで結果まできちんと確認してそういう結論として書いても問題ないのかきちんと考えるようになりました。

 

原 )論文を書くのって、1文を書くのにもきちんと根拠を持って考えて書かなければなりません。

 

大森)そうすると、もう、色んなところが気になってしまって(汗)

 

原 )そうそう。

 

大森)参考文献の文章だけではなくて提示されているデータにもまた戻ったりして。「これ、本当かな?」というのを見つけると、気になって気になってまた調べ出して。そういう作業をしていると、今回の研究で使っているpressure wireはいくつかの種類があるのですが、1つのwireに限定した方がいいかなというようなことにも気づきまして。そうすると、これ、nが減るじゃないですか。絶対原先生に言ったら怒られるなと思って(笑) でも論文化する際には絶対に正しいというか、正確なことを書かなければいけないということも何度も繰り返し言われて刷り込まれていたので、nが減りますけどuniformなデータで勝負した方がいいと思い先生に勇気を振り絞って言ったんですけど。あの時の反応はびっくりしましたけど、「よくそんな所に気付いたね!!」とか言って、逆に物凄く褒められた感じがしたんですよね。

 

原 )いや、褒めたよ(笑)

 

大森)あれはちょっとびっくりしました。nが減って怒られるんだろうなぁと思ったんですけど。

 

原 )nなんか減ってもコンセプトは何も変わらないですからね。

 

大森)nは多いほうがいいという概念に縛られていたので。

 

原 )そうそう。複数の種類のpressure wireで測ってたって別に研究デザインとしてはそれ自体は完全な間違いではないのですが、より正確で綺麗な研究をするうえで除いた方がいい症例があった時にきちんと私に言ってくれたというのは、それはやっぱりよく気付いたねと。自分で何度も参考文献や自分の研究を血眼になって読まないとそういう点には気づかないから。こういう点に「自分で気づく」と言うのはすごく大事なことなのですよ。しかも、大森先生の言う通り、「怒られるのではないか」とかいう心理がどうしても働くわけじゃないですか。でもこのままだと「まずいな」と思って言ってくれたんだと思いますけど、しっかり言ってくれた。気づいたこともすごいし、しっかり言ってくれたこともすごいなぁと。まさにそれでこそ真の科学者、scientistだと思いました。

 

大森)データを何度も全部見直していたら気づいてしまったので(苦笑)

 

原 )ですよね。それをやらないと気づかないですから。そこを能動的に自らやったということに対しては衝撃を受けました。なかなかそこまで自分ではできないですよ。我々は科学者でもありますからね。もちろん人のやることだから間違いは完全には防げませんが、そこは出来限り間違いがないようにしなければいけないですよね。ヒューマンエラーというのは臨床医学につきものだから、それ込み込みで臨床研究なんですよ。だから、悪気がなかったら、多少はしかたがないのです。事実、データ入力のクオリティーに関しては海外は本当にザルで適当な施設も多いんですよ。だけどそれをとにかく100%のデータに仕上げていこうという気持ちは絶対に大事なわけですから。例えば今回症例数が2例減りましたが、だからといって何も結果は変わらなかったですしね。

 

大森)気付いてしまうと、もしこれが論文になってもすっきりしないなぁという気持ちになったんですよね。

 

原 )さすがです。私は日本全国多くの医師の研究を支援してきているわけじゃないですか。そするとどうしてもある一定数の人はね、そんなレベルではなくて、データをいじっていい結果にしようという位のマインドの人が少なからずいるわけですよ、日本では。あまり良くないのですが。そこはね、やっぱりscientistであるべきですよね、私らは。そのことによって、もっと面白い真実がどんどん分かってくるわけですから。

 

大森)しっかりとした事実を伝えなければならないですね。

 

原 )そうそう。例えば先生の論文は48例51病変の解析で2.6点の雑誌に掲載されたわけですから御の字ですよ、やっぱり。仮に症例が10例減って雑誌のレベルが1点になったとしても、先生の経験値としては変わらないですよね。そしたら次はもっといい仕事ができますから。

 

大森)それは素直にやって本当に良かったなと思います。nが減ってまさか褒められると思わなかったです(笑)

 

原 )だから先生にはこれからもそのスタンスでやってほしいと思いますし、これを読んでくれている人は是非そのスタンスでやって欲しいですよね。実際私が指導している人はそのスタンスですけどね。みんな大森先生と同じようなことを言いいますから。

 

大森)研究指導の際に生データまで全部目を通すとか、多分あまりしてくれないのではないかと思います。

 

原 )それはそうですね。でも私はめちゃくちゃ細かいでしょ(笑)

 

大森)生データを全部先生にお渡ししたのですが、ある変数についてマイナス値が入ってまして、それはあり得んやろみたいな感じで(笑) よくそんな所を見ているなというのを・・・そうやって言われると自分も見ないといけないなと。すごく細かいところもダメ出しがきますから。

 

原 )すっぽんみたいにデータを見ますからね(笑) しつこいと思うよ私は(笑)

 

大森)普通の人は絶対気付かないようなところを・・・。

 

原 )そこはやっぱり、私は先生を指導しているので、指導者としてとにかく徹底的に、先生が少しでも・・・意図して悪いことをしないということは分かっているのですが、意図せずに間違いをやってしまうのは残念ですからね。その可能性を極限まで減らしたいと思いますよね。普通はまぁそんなことにはならないのですが、だけどそういう視点というかね、姿勢を学んで頂ければと思っています。ということでここまでアンケートの総論のお話をさせて頂きましたが、時間があっという間に過ぎてしまって、そろそろ対談終了時間になりますので、各論の話を1つ位はしておきましょうか。Introduction、Methods、Results、Discussion のどれか1つだけでいいので、これはみんなが知っていたらいいのではないかということを1つコメントしてもらえますでしょうか?

 

大森)原先生の講演を始めて聞いた際に最も驚いたことはIntroductionが全体の9割を占めるくらい大事だと言っていた点です。最初に先生に岐阜ハートセンターに来て講演してもらって、どの先生もびっくりしていました。9割とおっしゃっていましたよね、先生?

 

原 )9割って言いました(笑)

 

大森)Introductionって「さーっと読んで流すところ」と思っていましたが、逆にそういうふうに書かないといけないのか、と。1つ1つ、誰が読んでも「確かに」と、「だからこういう研究をやったのか」と。要はそういう事を一番考えて書かないといけないところなんだなというのが、実際に論文を書き上げて実感としてわかるようになりました。今も新しい研究論文を書いているのですが、今回の趣旨は何かっていうのを常に考えながら書いています。

 

原 )あ~、いいですねぇ。その思考過程はすごくいいですね(笑) 格闘家が手合わせするときに、初めの構えで実力がわかるって言うじゃないですか。私の感覚ではあれに近いのではないかなと思っているのですよ。Introductionを読めば著者のグループの実力がほぼ丸裸になるというか。

 

大森)色んな事を書いているIntroductionもありますよね。ブレブレで様々な情報を詰め込み過ぎているのですが、文章の流れや繋がりがないというか。ポンポン羅列してあって、何が言いたくて書いているのかよく分からないなと最近は思うことがあります。

 

原 )Introductionは最終的な研究の結論というか、ゴールに向かって読者を誘導するところですからね。

 

大森)今取り掛かっている研究論文も、最初にその方向性を一番上に書いておいて、それに向かっていこうと決めています。結構文章を書いていると無意識的に方向が微妙にずれてしまうことがあります。少しだけですが、同じところに向かっているはずなのに、それを強く意識できているかどうかで全然書こうと思う道筋が変わってくるように感じます。

 

原 )あ~、ちょっと玄人っぽい発言になってきましたね(笑)

 

原 )Introductionの話は臨床研究の極意本「十一の二」で書いてまして実践対談本でも出現頻度が高いので皆この話は飽きてるのではないかと思いますが、それでもさらにこの話をぶち込んできますか(笑) と言っているうちに時間になりましたのでこの各論の話をもって、そろそろ対談を終わりにしたいと思います。最後に臨床研究でキャリアアップしたいドクターに先生から何かメッセージとかありますか?

 

大森)臨床をやって10年目くらいになるとそこそこなんでも出来るようになっているため、少し天狗になっている状況だと思うんですよね。でも臨床研究を始めてみると、そういった治療方針が生まれた理由等、自分の考えが及ばないようなことまで気を付けながら治療に向き合っている人達が世界中に山ほどいて、すごいなぁと純粋に思えるようになりました。

 

原 )そうですよね。

 

大森)今回、研究して論文を書き始めて、やっとこういう考え方もあるんだとか、新たな世界というか、まぁそういう世界が少しずつ分かってきたように思います。若い人は臨床で大変だとは思うのですが、中堅くらいのポジションになると臨床研究をやってみるとまた違う世界が見えて面白いなと思っています。

 

原 )なるほどね。医学というのは、過去に頑張って色んなことをやってくれた人の積み上げた経験やエビデンスの上に乗っかってやっているから結構なんでもうまくいくわけですが、それって嫌な表現になるかもしれませんが日本的な表現をすると「他人のふんどしで相撲をとっている」だけなんですよね。ですので本当に過去の研究者をリスペクトしないといけないですし、自分達も下の世代にそういうものをきちんと残していかないといけないと思いますね。西洋文化では「巨人の肩に乗る」というような言い方もします。過去の先人たちの積み上げてきたもの(エビデンス)の上に乗っているから今それができるという考え方ですね。

 

大森)さらにいうと、海外の方とより広い視点でDiscussionできたりとか、そういう世界が広がるっていうのも楽しいです。

 

原 )確かに。それにしても先生、今日はすごく良い話を有難う御座いました。内容の半分ぐらいは今までの対談とは少し視点の異なる話題になりましたね。やはり同じことをしても、人それぞれ感じ方や得られるものが違うっていうのは指導者として非常に面白いですね。オーディエンスに参加された皆さんも、今日は有難う御座いました。

 

(了)